artist story vol'1
Ko-Hey! Arikawa
ALL FOR HAPPY
ーすべては幸福のためにあるのだー
1978年生まれ。
幼少の頃から実の父親からの虐待、家族の借金による夜逃げ、学校でのいじめなど、複雑な環境で育つ。
高校時代、阪神大震災の被災と両親の離婚をきっかけに、沖縄に嫁いでいた姉を頼って母と二人で沖縄県に移住。
20代になり、家族の死や、知人の多額の借金を背負うなど幾つもの不運に見舞われ人生における大きな挫折を経験する。
自らが自殺を考えていた時に、先に母親の自殺未遂があり、渾身の説得で思いとどまらせたことから自分も自殺を考えるのではなく、もう少しだけ頑張って生きてみようと気持ちを変化させていく。その方法を模索する日々の中、突如、アリカワの脳裏に浮かんだのが「ALL FOR HAPPY」という言葉だった。どんなに辛い体験をしても、その痛みを知ったからこそ、本当の幸福の意に気づくことができる。すべての経験は未来の幸福へとつながっているのだ。
人生を大きく好転させるためには自分の今までの人生の中で最も縁遠く、苦手であった分野に挑戦し、それをものにするくらいの劇的な変化を起こす必要があると考え、それが「絵を描く」ことだった。
たまたま自宅のベランダにあったコンクリートブロックに目をとめたアリカワは、灰色のブロックにに色を塗ってみることを思い立った。人生で初めて画材店へ行き、「何にでも塗れる絵具をください」と、なけなしのお金でアクリル絵の具を購入。さっそく色を塗ってみるとベランダが明るくなり、「色の力」を感じた。
その後、徐々に彼は絵を描き始め、思い立ったときにすぐ描ける手軽さや独特の温かみのあるクレパスに出会ったことでますます絵を描く時間が増えていった。たまに気に入った絵を描けるようになった頃、知人の花屋の店内に絵を飾ってもらえることになった。
その一枚の絵がきっかけでカフェでの個展の依頼が舞い込み、引き受けることにした。
当時は、彼にはアーティストとして生きていく未来は想像すらできていなかった。カフェでの初個展は本人の予想外に好評だった。この経験は、人間不信に陥っていたアリカワに、もう一度人生に挑戦してみたいという希望を与えた。そして彼は全く未経験のアートの世界に一歩踏み出す決意をした。自由でオリジナリティ溢れるアリカワの作品は次第に評判となり、絵を描き始めてから一年後には、彼は仕事を辞めて画家として独立した。
2005年から毎年秋に沖縄(日本)で行われている大規模展覧会「アリカワコウヘイ!EXPO」では毎年1万2000人超の来場を記録。「EXPO」とは「展覧会を超えた展覧会」の意で、ただ絵を見せるのではなく、大きなインスタレーションの中で作品を展示する空間芸術を実践している。アリカワのスタイルはファンからの根強い支持を受け、幅広い年齢層のファンを獲得。観客は知らず識らずのうちに空間芸術の一部になっているという趣旨で、これはアリカワいわく「地方に行くと文化的な経験が乏しくなりやすい現状を危惧し、アートを社会に取り戻すSEAとしての視点を持っておこなっているアート活動」である。アートファンではない一般の観客たちが家族でアートに触れるための場を制作し、核家族化が進む現代社会において「家族で出かけ、時間を共有する」体験をしてもらい、アートが生活に身近になることを目指している。アリカワは「EXPO」を「世界で一番、家族で行きたい展覧会」をテーマにして続けている。
「EXPO」は個人開催の展覧会でありながら入場料制を導入している稀なケースで、それは作品を販売することでしか生きられない経済的束縛からアーティストを自由にする挑戦的な実践である。
アリカワコウヘイ!の代表作は「BEST FRIEND-マシューくん-」「lamination」など。「EXPO」のようにインスタレーションの中で作品を展示するのは活動の一例であり、シンプルに絵画を展示したりグッズを中心にストア風に展開するなどその他の形の展覧会も多数開催している。
海外の活動が増えるにつれ、今まで独学でアーティスト活動を続けてきた自分に疑問を感じ始め、美術史すら十分に知らずに自分の作品を展示することはその国の美術史に対する敬意に欠けると考えるようになり、2014年に京都芸術大学に入学、2017年に卒業した。また、2020年初めに編集者でアートプロデューサーの後藤繁雄氏の著書「アート戦略/コンテンポラリーアート虎の巻」(光村推古書院)に感銘を受け同書に挟まれていたリーフレットにて京都芸術大学大学院に後藤繁雄氏のラボが設置されていることを知り、2020年4月に同ラボに入学、2022年3月に修了、MFA(美術学修士)を取得した。
すべての作品は”well being”が共通するテーマであり、"ALL FOR HAPPY! -すべては幸福のためにあるのだ- ”を座右の銘としている。